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東京の台所<72>父の記憶、母の味、そしてハンバーグ
文・写真 大平一枝
2014年7月9日

 ずいぶん前に取材を依頼していた。住人の祖母がかつて茶道を自宅で教えていたという趣のある古い日本家屋である。そのときは、母の体調が思わしくないため遠慮させてほしい、という返事だった。

 1年半後、ふいにメールが届いた。

<家を手放すことになりました。よかったら、最後に取材していただけませんか>

 大きな家に彼女と大学生の長男のふたり。聞かなくても、この間に、どんな別れがあったのか想像がついた。

 台所に入ると、開け放たれた勝手口から、雨粒をまとった木々の葉の緑が目に飛び込む。梅雨だというのに、爽(さわ)やかな風がそよりと吹いていた。

「平日は私は会社、息子は大学で、家は閉めっぱなし。だから土日だけは、雨だろうが曇りだろうがこの戸を開け放ってしまうのです。意外に風が通って気持ちいいでしょ?」

 母は、茶道の師範として多くの生徒を教える祖母の右腕だった。だが孫の彼女は一切、茶道を習おうとしなかった。実家のことを話すたびに、周囲からは今でも「なんで?」「もったいない」といぶかしがられる。

「母を茶道にとられて、なんだか父が寂しそうだったのです。私も小さな頃から、知らない人が始終、家を出入りしているのが苦手でした。そのうえ、姉も幼い頃から習い始めて……。だから私は、お茶は習わないと早くから決めていました。それは今でも後悔していません」

 テレビマンで多忙だった父は、彼女が19歳のときに急逝した。以来、毎年命日に、父を偲(しの)んで仕事仲間が20人ほど家に集まるようになった。

 その日は、大宴会になる。お茶に使う和室、次の間、居間。あちこちで大人たちが想い想いに父を語りながら、酒を飲み、母の手料理を味わう。家にとっては一大イベントである。

「2カ月も前から、なに作ろうかって母とそわそわ相談を始めるんです。私はラザニアとデザートのトライフルを作るくらい。あとは母が二十品あまりも作ります。命日の宴会は母が亡くなるまで23回続きました。だからうちには20枚単位のお皿がたくさんあるんですよ」

 居間から座を外し、わざわざ台所の椅子に座って食べる客や、グラス片手に立ち飲みにくる客も多かったそうだ。母娘の会話を聞きながら、出来た料理を端からつまみ、酒のおかわりをする。勝手口からの爽やかな夜風、次々たちのぼるおいしい匂い。賑やかな笑い声に包まれる一夜が目に浮かぶ。

 亡き人を偲び、旧交を温めるだけでなく、母の手料理目当ての人もきっと大勢いたに違いない。

「ぬた、煮あなご、薄味の里芋の炊合せ、のりまき、ちらしずし。今、どうにか作ったとしてもまったく母の味にならない。もうちょっと細かく聞いておけばよかったと思います」

 2012年12月に母が亡くなってから、よく花をいけるようになった。どれも野花のような素朴なものばかりだ。庭いじりが好きで、花を絶やさなかった母の面影を無意識のうちになぞっているのかもしれない。もう姿形はないけれど、この家のあちこちに彼女のお母さんはいる。

 来月、引っ越しをする。長男が幼い時に離婚して、母と二人三脚で子育てと仕事を両立させてきた彼女の気丈さがそうさせるのか、寂しいとも悲しいとも言わない。淡々とした表情で、新しい街もなかなか居心地がよさそうなの、と笑う。

「料理上手な母と違って、私は不器用。みじん切りがどうやってもざく切りになっちゃう。でも、そんな私の料理でもハンバーグだけは、息子が小さな頃から大好きでね。ハンバーグを焼くときは、台所に来てコンロのそばでフライパンをのぞきこみながら、『ママ、がんばれー、がんばれー』って応援してくれるの。親戚の子が遊びに来たら、『うちのハンバーグ、すっごくおいしいんだよー』って自慢していて、あれはうれしかったなあ」

 ハンバーグづくりを応援していた息子は今や大学生に。

 祖母、父、母、息子。たくさんの家族の来し方を見守ってきた台所はいずれ解体される。濃密な記憶の詰まった空間が跡形もなくなる。なんともいえない気持ちで私はその家を後にした。彼女はどれほどの思いでその決断をしたのだろう。

 数日後、メールが届いた。台所の窓にぺたりとへばりついたヤモリの写真付きで、こうつづられていた。

〈母がいなくなっても変わらずこの時期、台所の窓にヤモリが来ます。息子は高校生の時絶対2匹見たというんだけど、私はいつも1匹でした。この子たちが出てくると楽しく台所仕事ができるのでした。引っ越しで、何が寂しいかあえて聞かれると、このヤモリと庭のすずらんと離れることです〉

 すずらんはきっと庭いじりが好きだったお母さんの置き土産。ヤモリはこれまでの日々を見守ってくれていた守り神。その時、私は気づいた。降り止まない6月の雨のように、彼女はずっと心のなかで泣いている。

Jul 08
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(Source: egbudiwe, via ain-t-no-love)

Jul 07
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Jun 17
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Jun 02
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70sscifiart:

Manchu

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Manchu

(Source: tomorrowandbeyond, via pipco)

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cross-connect:

Richard Learoyd is a British fine art photographer based out of London, England and an alumni of Glasgow School of Arts. He shoots portraits with models and animals with a subtle, intimate detailed approach that brings out the soft ethereal tones of the images.

via: Empty Kingdom

// selected by ivi

(via machafu3)